中国国家市場監督管理総局、「知的財産権の濫用による競争行為の排除、制限の禁止規定」を公布
2023年6月29日に、中国国家市場監督管理総局は、「知的財産権の濫用による競争行為の排除、制限の禁止規定」を改正・公布した。当該規定は2023年8月1日より正式に施行された。今回の改正の主な目的は、2022年8月1日に発効した新「独占禁止法」を徹底して実行し、知的財産権分野の独占禁止法執行活動を強化・改善し、知的財産権の濫用による競争行為の排除、制限を効果的に予防・制止することである。
今回の改訂には、主に以下の点が含まれている。
一、知的財産権分野の典型的な独占
今回の改正は、知的財産権分野の典型的な独占に対して規定を行い、これは主にパテントプール、基準の制定と実施と標準必須特許の3つの方面を含む。
パテントプールについて、今回の改正では、パテントプールを不公平な高価で許可し、正当な理由なしにパテントプールメンバーまたは被許可者の特許使用範囲を制限し、正当な理由なしに競争特許を強制的に組み合わせて許可するか、非必須特許、終了した特許と他の特許を強制的に組み合わせて許可する行為は、パテントプールを利用して市場支配的地位の濫用に従事する行為として新設された(第17条)。
基準の制定と実施に関する独占行為は主に独占協定を締結することである。今回の改正では、経営者は基準の制定と実施を利用し他の競争関係にある経営者と以下の独占協定を締結してはならない:特定の経営者の基準制定への参加を共同で排斥したり、特定の経営者の関連基準技術案を排斥したり、他の特定事業者が関連基準を実施するのを共同で排斥し、及び、他の競争性基準を実施しないことを約束する(第18条)。
標準必須特許に関する独占行為は主に市場支配的地位を濫用することであり、標準制定中、権利情報を開示しないことと、標準必須特許の許可中、「FRAND」原則に違反することを含む。このうち、今回の改訂による権利情報の開示は、適時と十分という要件を追加した。「FRAND」原則に違反することは、特許が標準必須特許となった後に不公平な高値で許可することと、標準必須特許の許可中で善意の交渉なしに裁判所または関連部門に禁止令を請求することが新たに増加した(第19条)。特筆すべきは、本規定が公布された翌日の6月30日に、市場監督管理総局は、「標準必須特許分野に関する独占禁止ガイドライン(意見募集稿)」について公開的に意見を求める公告を発表した。このガイドラインは、標準必須特許の独占規制に特化した初めての法律文書であり、経営者が標準必須特許を濫用して競争行為を排除し、制限することをより改善し、細分化する規定である。
二、市場支配地位の濫用
今回の改正では、まず市場支配的地位の認定を規範化し、特に関連市場での取引相手が代替関係のある技術または製品に転向する可能性と転向コスト、下流市場における知的財産権を利用して提供される商品への依存度と取引相手の経営者に対するチェックアンドバランス能力は、知的財産権を持つ経営者が関連市場で支配的な地位を持っているかどうかを認定する考慮要素とする(第8条)。
今回の改正では、不当な高値で知的財産権を許可し、または、知的財産権を含む製品を販売するのを、市場支配的地位を乱用することとして新設し、かつ、不当な高値の考慮要素を明確にした(第9条)。
今回の改正では、知的財産権の行使における「許可拒否」、「限定取引」、「抱き合わせ販売」、「不合理な条件の付加」、「差別待遇」などを含む他の市場支配的地位の濫用の認定考慮要素を細分化した(第10条~第14条)。これらの市場支配的地位の濫用及び前述の、基準の制定と実施を利用した独占協定の締結は、「正当な理由」という概念に関わる。すなわち、経営者が上記の行為を実施する場合、その「正当な理由がない」場合にのみ、知的財産権を濫用し、競争を排除、制限することを構成する。これに対し、今回の改正では、「正当な理由」を認定する考慮要も明らかになった(第20条)。注目すべきは、「正当な理由」を認定する考慮要素には、「革新の奨励と市場の公平な競争の促進に有利である」ことが含まれている。これは、この規定が競争の排除、制限を禁止すると同時に、知的財産権という合法的な独占権を利用して良性競争を促進することを意図していることを体現している。
前述の市場の支配的地位の濫用において、今回の改正は、「不合理な条件を付加する」具体的な状況について補足し、取引相手がその知的財産権の有効性に疑問を提起ことと、取引相手がライセンス契約期間満了後に知的財産権を侵害することなく競争的な技術または製品を利用することを禁止するという従来規定のほかに、今回の改正では、合理的な対価を提供しない場合に、取引相手に同じ技術分野のクロスライセンスを要求することと、取引相手に対してその改善された技術を独占的な返付するという要求から、排他的または独占的な返付するに拡大されたことは新設された(第13条)。
三、経営者集中
今回の改正では、知的財産権の濫用による競争排除、制限として、「競争排除、制限の効果があるかまたはある可能性のある経営者集中の実施」を確定した(第3条)。今回の改正はまた、知的財産権に関わる経営者の集中が国務院の規定した申告基準に達した場合、事前に市場監督管理総局に申告しなければならない原則(第15条)を明確にし、経営者集中の審査に必要な考慮要素と経営者集中に付加できる制限的条件の具体的な状況を規定した(第16条)。所謂制限的条件とは、経営者集中に対する審査の過程で、競争を排除、制限する可能性のある集中案件に対して、集中に参加する当事者が競争の排除、制限の影響を取り除くために関連する承諾をした場合、独占禁止法執行機関は当事者の承諾を受け入れ、制限的条件を付加する方式で承認することができる。具体的な制限的条件としては、知的財産権または知的財産権に関連する業務の切り離し、知的財産権に関連する業務の独立した運営の維持、合理的な条件で知的財産権を許可することなどが挙げられる。
また、今回の改正では、新たな独占禁止法と一貫性を保つために、関連経営者の処罰金額の確定及び独占禁止法執行機関の従業員の違法事項の処理規定(第25条~第31条)に関する独占禁止機構の法執行に関する規定が新たに追加された。
今回の改正は知的財産権分野の独占禁止に関する問題を補足・細分化し、監督管理機構の法執行の明確性と経営者の法執行方向の予測性を強化し、企業、法律関係者が知的財産権の行使過程に存在する独占禁止リスクをどのように下げるかに重要な参考を提出し、非常に重要な現実的意義を持っている。